2012年4月14日

ワン・ビン(王浜)監督作品「無言歌」

映画館で食い入るように観てしまった。毛沢東の「反右派闘争」により、1960年、極寒のゴビ砂漠の強制収容所に送られた中国知識人たちの悲惨な物語。そのわずかな生存者の証言による実話をもとに、彼らが砂漠に送り込まれ、労働と飢餓と寒さで次々と亡くなっていく様を、徹底的に乾いた映像で表現した映画だ。

ジャーナリストの
佐々木俊尚氏は「あまりにもリアルで凄惨な描写に吐き気がする」と評した。ただしこの映画に直接的な残虐な描写はない。一切音楽なしで淡々と日常が描かれるのだが、砂漠の映像美によりそれが彼らの途方もない絶望感を感じさせる。

1956年、毛沢東は共産党への自由な批判を歓迎する
「百花斉放・百家争鳴」を打ち出した。知識人たちはこぞって自由な発言を始めたが、そのわずか数ヶ月後突如方針を転換、共産党批判を行った者を容赦なく粛正するという「反右派闘争」が始まった。突然「右派」のレッテルを貼られた知識人たちが、「労働改造」と称して収容所送りとなる。ちょうど同時期、毛沢東の推進した「大躍進政策」の大失敗のために、中国全土で大規模な飢饉が発生し、収容所にも食料が届かなくなってしまう。

この中国全土を襲った狂気である「反右派闘争」「大躍進政策」「文化大革命」はわずか40年ほど前のことであり、数千万人もの人々が犠牲になったと言われる。あまりの理不尽さに絶句するしかない。空想的イデオロギーや権力者の狂気ほど恐ろしいものはない。

2010年香港・フランス・ベルギーの合作映画。監督のワン・ビン(王浜)氏はドキュメンタリー映画により世界映画の第一人者とされている。

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